経験・勘・度胸のプロジェクトはなぜ、限界を迎えるのか~PMBOKのすすめ~

皆さんの手掛けるさまざまなプロジェクトは、うまくいっていますか。
単に設備導入のプロジェクトのみならず、会社の新規事業プロジェクトや新人育成プロジェクトなど、
さまざまなプロジェクトが進められていると思います。

しかし、そのプロジェクトも毎回手探り状態であったり、さまざまな外乱が影響して、うまくいかない場合が多いのではないでしょうか。

何か、そのようなプロジェクトが成功する方法があるとしたら、知りたくないですか。

私自身も、数々のプロジェクトを経験してきましたが、あることを知ったことで、多くの経験に頼らずとも、
より成功に近づく確率を上げることができると感じました。

それが、米国PMIがまとめたPMBOK(Project Management Body of Knowledge:プロジェクトマネジメントの知識体系)ガイドです。

今回は、皆さんにその内容と適用例をお伝えしたいと思います。

設備導入プロジェクトの具体例を出していますが、この内容はそれだけにはとどまりません

多くの多様なプロジェクトに適用できますので、是非理解を深めてていただければと思います。


では、さっそく内容を見ていきましょう。

なぜ設備導入プロジェクトは破綻してしまうのか

設備導入は、多くの企業にとって「数年に一度の大きな投資」です。

生産性向上、増産、新商品への対応、品質向上、新分野への挑戦など、
さまざまな目的をもって進める、非常に重要なプロジェクトです。

にもかかわらず、その進め方は驚くほど“場当たり的”であることが少なくありません。

例えば、

仕様は決めたはずなのに、完成後にトップから「思っていたのと違う」と言われるとか。
プロジェクトの責任者に任命されたが、結局一人ですべて抱えてしまい、
プロジェクトが破綻寸前になる。

メーカーとの打合せは重ねたのに、立上げ時に追加工事が発生する

安全基準や運用条件の認識違いでやり直しになる といった感じです。


こうしたトラブルの多くは、技術力の問題ではありません。

原因は、「プロジェクトとして当然やるべきことがなされていないこと」にあります。


設備やシステムは高度化しているのに、プロジェクトの進め方は属人的で、
ベテランのプロジェクトマネジャーには、人はついていくが、
新米のプロジェクトマネジャーは、まるで冷たい滝で打たれるかごとくの、
修行の領域にさらされ、昔のまま。

ここに本質的な問題が存在しています。

ベテラン(経験重視)型プロジェクトの限界

経験は武器だが、万能ではない

リーダーシップには主に6つの種類があると言われています。

自由放任型傍観主義、チームに意思決定を任せる
業務達成型達成すべき目標に重点を置く
サーバントリーダー他社を第一に考え、他者に仕えるようにふるまう。リーダーシップは二次的であり、他所に仕えることによる事後的に派生する
変革型理想の姿を示したり、イノベーションや想像を奨励したりすることで人々を力づける
カリスマ型情熱的で自身があり、強い信念を持つことで、人々を鼓舞できる
相互型業務達成型、変革型、カリスマ型の組み合わせ

従来のリーダーシップは、どちらかというとカリスマ型が多かったと思います。

たとえば、みんなをぐいぐい引っ張っていき、皆に意見をきくというより、
自身が判断して責任を取るという、そういうリーダーをイメージするのではないでしょうか。

ベテラン型の進め方は、こうしたカリスマ型の特徴を持ちます。


✔ 自身の過去の成功、失敗事例を基準に判断する(個人の判断基準)
✔ 全体設計より個別調整で解決する(根回し)
✔ 周囲への意見収集より自身の考えを通す
✔ あまり周囲へ相談しない
✔ 必要な情報のみを関係者に展開する
✔ リスクは自分だけで考え、対応すべきことのみを展開する

これらは、一見すると合理的です。

実際、ベテランが中心にいる間は、プロジェクトは回ります。
しかし、このスタイルは「前提が安定していること」が条件です。
今はどうでしょうか。


✔ 海外メーカーとの取引
✔ デジタル技術、AIの進化
✔ 世界情勢や状況が刻一刻と変化する
✔ 法規制の強化や変化
✔ 人材の多様化
✔ 人材不足、退職リスク

不確実性が増す中で、「過去の延長線」だけでは対応できません。

経験は重要ですが、構造化されていない経験は再現できないのです。

カリスマ型プロジェクトマネジメントの限界

どの会社にも「この人に任せれば大丈夫」という存在がいます。

✔ 判断が早い。
✔ 現場をまとめられる。
✔ トラブルにも動じない。


しかし、それは「組織の強さ」ではなく、「個人の強さ」です。


では、イメージしてみてください。
あなたが思う、カリスマ型プロジェクトマネジャーが、
急に、異動になったとしたら・・・。
おそらく、他の人が育つまで時間がかかるのは目に見えています。

カリスマ型の限界は、次の3点に集約されます。

判断のブラックボックス化

なぜその仕様なのか。
なぜそのメーカーなのか。
なぜそのリスクは許容できるのか。


説明が感覚的になり、言語化されない。
その結果、他のメンバーは「理解」ではなく「追従」「」になります。


○○さんが言うから間違いないだろう。
よくわからないが、○○さんが責任をとってくれるだろう。


ノウハウが蓄積されない

さらに、
成功しても、体系化されない。
失敗しても、構造分析されない。
プロジェクトは“点”で終わり、線や面にならない。


これは企業にとって大きな損失です。

次世代が育たない

若手は会議でこう感じています。
「なぜそう決まったのか分からない」
「自分の意見は求められていない」
「責任だけ増える」
「言われたことだけやっていればいい」

これでは成長の機会が生まれません。

往々にして、重要なプロジェクトは、若手中堅ではなく、

そのカリスマ型マネジャーが対応してきた場合が多く、
実は、その人以外に、ノウハウや経験は受け継がれていないのです。
その背景として、自分自身もそのように育ってきたという気持ちもあるのかもしれません。

しかし、若手、中堅の貴重な、挑戦の機会も、そのカリスマ型マネジャーが独り占めしてしまっていることには、
気づいていない人も多いのです。


VUCAの時代に属人化はリスクになる

現代はVUCA(不確実・複雑・曖昧)と言われます。

例えば、

・海外サプライヤーとの契約条件
・戦争などによる影響
・安全規格の国際整合
・為替リスク
・補助金要件との整合

設備導入は、単なる技術課題ではなくなっています。


属人化は、次のような経営リスクを生みます。
✔ 若手、ベテラン、派遣社員などの退職でプロジェクトが止まる
✔ 判断が遅れ投資機会を逃す
✔ 同じ失敗を繰り返す
✔ 組織としての競争力が低下する

これは現場の問題ではなく、実は経営課題なのです。

再現性がないことの本当の怖さ

再現性がないとは、

・成功要因が説明できない

よくあるのが、なぜ成功したのかと振り返った時に、
「お客さんが協力的だった」「特に難しいトラブルが発生しなかった」などが上がります。

本来であれば、
「お客さんが協力的だったのは何が要因だったのか」、
「トラブルが発生しなかったのは、どのようなアクションをしたからなのか」
を掘り下げるべきですが、
成功に着目してしまい、肝心な掘り下げができなくなります。

・失敗要因が特定できない
失敗要因も同様です。
上手くいったプロジェクトほど、埋もれた失敗要因に目を向けたがらないのです。

つまり、次回に活かせない
ということです。

設備導入は高額投資です。
再現性がないということは、「毎回ギャンブルしている」のと同じなのです。

企業経営として、それは健全とは言えません。

では、どうすればよいのか

では、どうすればよいのでしょう。

答えは「経験を否定すること」ではありません。
その経験や勘を 構造化すること です。

属人化を脱し、組織の仕組みに落とし込む。

その必要性を、会社、企業として強く認識しておく必要があります。

そのための共通言語が、PMBOKガイドです。
PMBOKガイドは、世界中のプロジェクトマネジャーの経験や知識を、文章に体系化したものなのです。
このようなものを使わない手はないのです。

PMBOKという共通言語

私自身も、これまで、さまざまなプロジェクトを対応してきました。
比較的大きなプロジェクトでも、私一人がマネジャーとして動き回っても、
あまり協力されず、自分の力の無さに苦しんだこともあります。

たった一人で孤軍奮闘して、何とかやり遂げ、納期は問題なかったものの、
利益が残せず、自分の経験と勘、度胸だけがついた気がします。
本来であれば、もっと適正にプロジェクトを運営し、もっと利益を残すことが、
組織としてのあるべき姿だと思います。

他社と共同で携わった大型工場建設プロジェクトも同様です。
部長クラスの凄腕のプロジェクトマネジャーが指揮をとり、何とかやり遂げましたが、
知識や経験以外には、あまり有形のモノが残ることはありませんでした。

私は、そのプロジェクトの終了後 PMI(Project Management Institute)という米国の団体の、
PMBOK(Project Management Base Of Knowledge)ガイドというプロジェクト管理を体系的にまとめたものを知ったのです。

PMBOKの勉強を始めてから気づいたのですが、初めて聞くものばかりではありませんでした。
当然、すでの会社の標準やルールとして存在しているものもありました。


PMBOKでは経験や勘、度胸に近いナレッジも言語化され、
世界中のプロマネのワールドスタンダードとなっています。

PMBOKは難しい理論ではありません。
私たちがなすべき事、押させておくべき知識や経験が言語化されています。

例えば、

✔ 目的を明確にする
✔ 計画を立てる
✔ 実行する
✔ 進捗を管理する
✔ 終わらせ方を定義する

これを体系化したものです。

設備導入に当てはめると、

✔ なぜ導入するのか(立上げ)
✔ 何を作るのか(計画)
✔ どう進めるのか(実行)
✔ どこが問題なのか(監視)
✔ 何が終わりで、経験として何を学んだか(終結)

当たり前のことを、抜け漏れなく整理する。

それを意識するだけで、プロジェクトの質と成功確率は大きく変わります。

まずすぐにできること

仕組み化は一気に進める必要はありません。

まずは、
✔ 設備導入の目的を文書化する(プロジェクト憲章もしくはそれに準じるもの)
✔ 役割と責任を明確にする(プロジェクト体制と役割リスト:責任分担リスト)
✔ 想定リスクを事前に洗い出す(リスク評価、リスク登録簿)
✔ 終了条件を明文化する
✔ 振り返りを必ず行う(レトロスペクティブ、振り返り、教訓登録簿)


これを実行するだけでも、再現性は高まります。

実行に移すために必要なこと

最も重要なのは、トップの理解と覚悟です。
多くの場合トップは、自分自身がカリスマ型プロジェクトマネジャーであった可能性あります。

そのような型の場合は、昔はこれぐらい一人でやっていたと言いかねません。
まずはトップがしっかりワールドスタンダードのプロジェクトマネジメントを学ぶ必要があります。

経営者自らが、PMIが実施している国際資格、
PMP(Project Management Professional)やPMBOKガイドを勉強してみてください。

また、組織としてPMBOKを共通言語として、
仕組みの中に入れてしまうことをおすすめします。

✔ 属人化をやめると決める
✔ 若手にプロジェクトを任せて育てると決める
✔ リスク管理を事前に行う
✔ 文書文化をつくると決める
✔ PMBOKの要点を盛り込んだ、業務フローとフォーマットを仕組化する

現場だけでは変えられません。

経営の意思が必要です。

まとめ

経験・勘・度胸が否定されるものではありません。
しかし、プロジェクトマネジメントにおいては、それだけでは限界があります。

➀ 再現性が低い
② 若手が育たない
➂ 属人化が進む
➃ 経営リスクが高まる

設備導入は、単なる設備更新ではありません。
組織の成熟度を試されるプロジェクトです。

今こそ、経験を仕組みに変える時です。

  1. PMBOKを学び、業務フローの整備とフォーマットを仕組化する
  2. 若手にプロジェクトを任せて、ベテランはサポートに回る
  3. リスク管理を事前に行う
  4. 属人化とならないように、プロジェクトは全員が関与する
  5. プロジェクトの完了後には、必ず振り返りを行い、教訓を整理する
  6. 経営者自ら、方向性と行動をしめす

これらのポイントの認識して、進めることで、プロジェクトの成功確率は格段に上がっていきます。

この記事では、PMBOKガイドとその適用方法について、ご紹介しました。

技術のかけはしでは、設備導入時にこれらの適用に関するお手伝いも行っております。

まずは、お気軽にご相談、ご連絡ください。

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